将棋の置き方と並べ順完全解説!大橋流・伊藤流の違いと初心者の作法
盤上にカチリと響く駒の音。日本の伝統文化である将棋において、対局前に駒を並べる行為は単なる準備作業にとどまりません。それは対局者同士が礼を尽くし、盤上での戦いに向けて精神を研ぎ澄ます神聖な儀法でもあります。公式戦の中継などでプロ棋士が流れるような手つきで駒を配する姿には、長年受け継がれてきた格式ある作法が息づいています。
本稿では、初心者が迷いがちな将棋盤の升目配置や駒の定位置から、江戸時代から伝わる二大流派「大橋流」「伊藤流」の具体的な並べ順、さらには王将と玉将の格付けや駒台の扱い方に至るまで、現場のプロ棋士や日本将棋連盟の所作基準に基づいて徹底解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:将棋の初期配置は縦横9升(計81升)に40枚の駒を配置し、先手・後手それぞれ20枚を定位置に並べる。
- 要点2:正式な並べ順には「大橋流」と「伊藤流」があり、香車を上げるタイミングと歩の並べ方に明確な思想の違いが存在する。
- 要点3:上位者が「王将」、下位者が「玉将」を持ち、駒台の位置や振り駒の手順にも盤上の品格を保つ厳格な作法がある。
将棋盤の升目配置ルールと駒の初期配置|図解で迷わない基本の定位置
将棋盤は縦9列×横9段の計81升で構成されており、対局者は手前の3段(計27升)を自陣として使用します。対局開始時に配置する駒は双方合わせて全40枚(各自20枚)です。日本将棋連盟の競技規定に基づき、各駒の置き場所は厳密に定められています。
自陣の配置は手前の段から奥に向かって3段で構成されます。1段目(最も手前)の中央に「玉(王)」を据え、左右対称に「金将」「銀将」「桂馬」「香車」を並べます。2段目は左に「角行」、右に「飛車」を配置(※先手視点)。3段目には9枚の「歩兵」を一列に敷き詰めます。
初心者にとって最も混同しやすいのが飛車と角行の初期位置です。覚え方の基本として「右利きの大砲=飛車(右側)」「左の守護=角行(左側)」と把握しておくと迷いません。また、王の左右に控える金将・銀将の配置は「王のすぐ隣が金、その外側が銀」と外側に向かって駒の機動力が広がる構造になっています。
| 段数(自陣) | 配置される駒(左から右) | 枚数 | 配置時の注意点・チェックポイント |
|---|---|---|---|
| 1段目(最下段) | 香車・桂馬・銀将・金将・玉将/王将・金将・銀将・桂馬・香車 | 9枚 | 中央の玉を基準に左右完全対称で配置。外側に向けて香・桂・銀・金となる。 |
| 2段目(中段) | 空・角行・空・空・空・空・空・飛車・空 | 2枚 | 左から2升目に角行、右から2升目に飛車。初心者の左右取り違え頻出エリア。 |
| 3段目(最前段) | 歩兵(9枚均等配置) | 9枚 | 自陣の最前線。横一列に隙間なく並べ、敵陣と3升の間隔を空けて対峙する。 |

【徹底比較】プロも実践する「大橋流」と「伊藤流」の並べ方手順と違い
将棋界には、江戸時代の家元制度に端を発する二大配置作法「大橋流」と「伊藤流」が存在します。どちらの流派も初代名人たちによって考案され、現代の公式戦でもプロ棋士が個々の信条や美意識に基づいて使い分けています。
日本将棋連盟の調査資料や棋士アンケートによると、現役棋士の約8割が大橋流を採用し、約2割が伊藤流を選んでいるとされます。両者の決定的な違いは、「香車を据えるタイミング」と「歩兵の並べ順」にあります。
| 項目 | 大橋流(おおはしりゅう) | 伊藤流(いとうりゅう) | 思想的背景と評価 |
|---|---|---|---|
| 考案者・起源 | 初代大橋宗桂(一世名人) | 初代伊藤宗看(三世名人) | 江戸初期の将棋三家による美学の結晶 |
| 基本の並べ順 | 玉→左金→右金→左銀→右銀→左桂→右桂→左香→右香→角→飛→歩(中央から左右交互) | 玉→左金→右金→左銀→右銀→左桂→右桂→角→飛→歩(左から順)→左香→右香 | 大橋流は対称美、伊藤流は武士の軍容を重視 |
| 香車を置く位置 | 桂馬の直後(1段目を完成させてから2段目へ) | 全体の最後(歩を全て並べ終えた後) | 「槍(香車)の前に兵(歩)がいないのは無礼」という武家思想 |
| 歩の並べ方 | 中央(5筋)から左・右・左・右と外側に広げる | 左端(9筋)から右端(1筋)へ一方向に並べる | 大橋流は調和と均衡、伊藤流は軍勢の前進を想起 |
| プロ採用率・難易度 | 約80〜85%(初心者推奨) | 約15〜20%(こだわり派向け) | 初心者は直感的に左右対称な大橋流から入るのが通例 |
大橋流の手順詳細:中央から外へ広がる対称美
大橋流は、盤の中央に鎮座する王を守るように、内側の駒から外側へ左右均等に配置していくのが特徴です。「左を置いたら次は右」という原則が徹底されており、視覚的なバランスに優れています。
1段目の駒を「玉→左金→右金→左銀→右銀→左桂→右桂→左香→右香」と全て埋めた後、2段目の「角行→飛車」を置き、最後に3段目の歩兵を「5筋(中央)→4筋→6筋→3筋→7筋→2筋→8筋→1筋→9筋」と中心から外側へ振り分けるように配置します。
伊藤流の手順詳細:武士道精神が宿る合理的な軍容
伊藤流は、香車を「槍」に見立て、「前線に歩兵(足軽)が布陣していない状態で槍を構えるのは敵に対して礼を失する、あるいは無防備である」という古来の軍学思想に基づいています。
そのため、桂馬を置いた後に香車を飛ばし、先に2段目の「角行→飛車」を配置。続いて3段目の歩兵を「9筋(左端)から1筋(右端)」へ向かって順に並べ、歩の壁が完成した最後の最後に「左香→右香」を据えるという極めて合理的な手順を踏みます。
上座・下座と「王将・玉将」の使い分け|対局前の振り駒手順と作法
将棋の駒箱を開けると、中心となる駒に「王将」と「玉将」の2種類が含まれていることに気づきます。これらは単なる表記揺れではなく、対局者の格付けに応じた明確な使い分けルールが存在します。
将棋の礼法において、段位が上の者(有段者)、年長者、またはタイトル保持者が「王将」を使います。一方の下位者・後輩・挑戦者は「玉将」を持つのが絶対的な原則です。同段位・同年齢の場合でも、事前の取り決めで上位に位置づけられた側が王将を選択します。
また、対局室における座る位置(上座・下座)にも厳格なマナーがあります。床の間がある部屋では床の間を背にする席が「上座」、出入口に近い側が「下座」となります。上位者が先に上座へ着席し、王将を手元に引き寄せてから駒を並べ始めるのが伝統的な作法です。
先手・後手を決定する「振り駒(ふりごま)」の手順も、公式戦では厳正に運用されています。
- 歩兵の準備:上位者(または記録係)が自陣の「歩兵」を5枚取り出します。
- 振る動作:両手の中で駒をよく混ぜ合わせ、傷がつかないよう白布(または盤上・畳)の上に振り落とします。
- 判定基準:表(歩)の枚数が多ければ上位者の先手、裏(と金)が多ければ下位者の先手(上位者の後手)となります。
- 同数・立ち駒の処置:駒が立ったり重なったりして判定不能な場合、または表裏が同数の場合は、即座に振り直します。

【実態検証】駒台の置き方と盤上の所作|初心者が無意識にやりがちなNGマナー
駒の並べ方と同様に、対局中の「駒台の扱い方」や「手の動き」には対局者への敬意が如実に表れます。将棋道場や全国大会の現場において、審判員や指導棋士から指摘されやすいNGマナーを検証します。
将棋における駒台の基本位置は「盤の右手側」です。獲得した持ち駒は、相手から常に何の駒が何枚あるか一目で視認できるように、重ならないよう整然と並べて置く義務があります。駒を裏返して置いたり、手の中に隠し持ったりする行為は、反則行為に直結する重篤なマナー違反です。
日本将棋連盟の対局マナー規定および全国アマチュア大会で頻繁に注意喚起される代表的な禁忌事項は以下の通りです。
- 駒の強打(叩きつけ):盤を傷つけるだけでなく、相手への威嚇行為とみなされます。
- 二度指し・待った:一度手から離れた駒を動かし直す行為は厳禁です。
- 駒弄り(手遊び):駒台の駒をカチャカチャと鳴らし続ける行為は、相手の思考を妨害する迷惑行為と判定されます。
- 不必要な手番外動作:相手の考慮中に盤面の上に手をかざしたり、身を乗り出して視界を遮る行為は厳に慎むべき作法です。
一般に知られていない盲点とネットの誤解|「並べ順を間違えると反則?」の真相
ネット上のQ&AコミュニティやSNSでは、「大橋流や伊藤流の順番を間違えると公式戦で反則負けになるのか?」という極端な疑問が散見されます。しかし、日本将棋連盟の正式な競技規則において、駒を並べる順番そのものに対するペナルティ規定は一切存在しません。
極論を言えば、歩兵からバラバラに並べたとしても、対局開始時に所定の初期配置(81升の定位置)が正確に完成していればルール上の違反(反則負け)にはなりません。しかし、公式戦や昇段審査の場で無秩序に駒を並べる棋士は皆無です。
それは、駒を並べる順序が単なるルールの遵守ではなく、「無心になって盤面と対話する儀式」としての精神的規律を帯びているからです。茶道のお手前や弓道の射法八節と同様に、決められた型(フォーム)を正確になぞることで、余計な雑念を払い、最善手を追求するための精神状態を整えています。

【プロの結論】所作が勝負を左右する心理的アプローチと流派の選び方
スポーツ心理学や認知科学の観点からも、対局前のルーティン(決まった一連の所作)はパフォーマンスの安定化に絶大な効果をもたらすことが立証されています。駒を一手一手決まった順序で置く動作は、脳の扁桃体の興奮を鎮め、前頭前野の論理的思考力を呼び覚ます「アンカー(心理的引き金)」として機能します。
では、現代のプレイヤーはどの流派を選択すべきなのでしょうか。自身の対局スタイルや目的に応じた選択基準を提示します。
大橋流を選択すべき人
- 将棋を始めたばかりの初級者〜中級者:左右対称の構造により、駒の置き忘れや初期位置の間違いを物理的に防ぎやすい。
- 一般的な道場や大会で標準的な作法を身につけたい人:普及率8割超のスタンダードであるため、誰と同席しても違和感なく調和できる。
伊藤流を選択すべき人
- 歴史や武道的な精神性を重んじるプレイヤー:「歩の後ろに香車を控える」という軍学的な合理性に美学を感じる人。
- 対局前に左から右へと流れるリズムで集中力を研ぎ澄ましたい人:一方向への流麗な指し味を大切にする有段者や研究派。
【将棋の置き方】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:初心者が最も早く駒の初期位置を覚えるコツはありますか?
A1:まずは最前線の「歩兵9枚」を一直線に並べ、自陣のスペースを視覚的に画定させます。次に、手前中央に「王(玉)」を据え、内側から「金・銀・桂・香」と左右対称に広げていきます。最後に「左が角、右が飛車」と唱えながら2段目を埋めると、わずか数回の練習で確実に定着します。
Q2:飛車と角行の初期位置を左右逆に置いて対局を始めたらどうなりますか?
A2:公式戦の規定では、初期配置の誤りに気づいた時点で直ちに修正して指し直すか、進行状況によっては「反則」の対象となります。特に飛車と角の逆配置はゲームバランスを根本から崩すため、対局開始の一礼をする前に必ず2段目を確認する習慣をつけましょう。
Q3:左利きの場合、駒台を盤の左側に置いても問題ありませんか?
A3:公式戦規程において駒台の配置場所は右手側が原則とされていますが、左利きの対局者が事前に相手と記録係(審判)に断りを入れ、了承を得た上で左側に配置することは認められています。無断で変更せず、事前に一言添えるのが大人のマナーです。
Q4:振り駒で駒が畳の隙間に立ってしまったり、盤外へ落ちた場合は?
A4:5枚のうち1枚でも判定がつかない状態(立ち駒や重複)が生じた場合、その回の結果は無効となり、5枚すべてを回収して即座に振り直します。審判や相手が確認する前に勝手に駒を触らないよう注意してください。
まとめ:正しい駒の置き方と作法が盤上の集中力を研ぎ澄ます
将棋の駒の置き方は、単なるゲームのセットアップ作業ではありません。それは江戸時代の名人たちが編み出し、何百年もの時を経て磨ぎ澄まされてきた「盤上の礼儀作法」であり、自分自身の集中力を最高潮へ高めるための実践的ルーティンです。
大橋流の整然とした対称美に身を委ねるか、伊藤流の武士道的な筋道に心を整えるか――いずれの作法を選ぶにせよ、指先一つひとつに敬意を込め、丁寧に駒を並べる姿勢こそが、対局者の品格と棋力を高める第一歩となります。次の対局ではぜひ、歴史ある所作の重みを感じながら盤面に向き合ってみてください。 (出典: 将棋 の 置き 方(Yahoo!ニュース))